早乙女勝也君からCDウォークマンを借りたその夜、その昔、じっちゃんもウォークマンを持っていたことを知って驚いた。
「オレのはカセットのウォークマンだけどな」と言って当時の歌手やヒット曲の話題となり、じっちゃんはサザンオールスターズ、山下達郎、オフコース、ビートルズ。ばっちゃんは山口百恵、チェカーズ、中森明菜をよく聴いていたという。
中森明菜は清瀬市役所の隣にある清瀬中学校出身で、我が地元では別の意味で有名人なのだ。
そんな話に花が咲き、借りてきたCDウォークマンをみんなで聴きまわしていたら、ばっちゃんが「夏子が欲しかったら買ってあげるわよ」とうれしいことを言ってくれる。
するとじっちゃんが「無人販売で野菜がよく売れているから、夏子、遠慮はいらねえぞ、買ってもらえ!」と話がどんどん進み、次の日曜日に新座のコジマ電気に3人で行くことになった。
「ばっちゃん、ありがとう」と言うと「夏子はいつもいろいろ手伝ってくれるからね。ごほうびだよ…」とばっちゃんはうれしそうに言ってくれる。
翌日、早乙女君に「CDウォークマンを買ってもらうことになったの…」と話すと「ウォークマン、あげようと思っていたんだ。自分はSDカードのメモリー・ウォークマンで聴いているから、あれは使っていないんだ…」と言う。でも私は〝SDカード″ってなんだかかわからない。どうやら音楽関係の機器はどんどん進化しているらしい。
「もらうわけにはいかないから、買ったら返すね…」とその場の話は終わりにした。
そして日曜日。3人で出かけ、CDウォークマンを買ってもらい、帰りに吉野家に寄って牛丼を食べることになった。そのときにじっちゃんが「ウォークマンを借りたお礼をしなければな…」と言い出した。確かにそうだ、何がいいかな?と思っていたら、ばっちゃんが「コージーコーナーのお菓子の詰め合わせはどう…」と言う。「それがいい。そうしよう…」とじっちゃんのひと言で決まりだ。
帰る途中で、お礼のお菓子を学校に持っていくことは出来ない、早乙女君の家にじかに持っていかなければと思い、栄次だったら彼の家を知っているかもと、福福亭に寄って聞いてみた。すると学校近くの茶色いマンションの2階だと教えてくれた。
家に戻り、借りたCDウォークマンを持って訪ねてみると、早乙女君は留守で、お母さんが出てきた。そのお母さんが驚くほど美しい人なのだ。お化粧美人ではなく、清潔感が溢れて、笑顔が素敵で、やさしい声で対応してくれた。
翌日、学校で早乙女君に「お母さん、キレイな人だね」と言うと、
「どこが…! 怒ると鬼になるぞ。それよりお菓子ありがとう。美味しかったよ」と言う早乙女君はどことなくお母さんに似ている。
「買ってもらったCDウォークマンはどう?」と聞かれ「とてもいい。でも、私、あまりCD持ってないの…」と言うと、
「うちの”鬼“がたくさん持っているから、今度貸してあげるよ」と言う。
じっちゃん・ばっちゃんがその昔聞いていた歌手の話をすると、探してくると言うのだ。ありがたいと思った。今までそれほど話したことがなかった早乙女君だったけど、クラスにはいい人がいるもんだ。
「ひとつ質問していい? お笑い芸人のCDってあるの?」と聞くと、
「どうだろう……DVDはあるけどCDは見たことないよ」と早乙女君。
「そうだよね。ツタヤにもなかったしね…」
「お笑い芸人、好きなのか?」と聞かれて、
「私、いつか、お笑い芸人になりたいんだ!」と言うと、早乙女君は驚きの顔をして、私をまじまじと見つめている……。
「私ね…人から面白い人間だね…って言われたいの……」と、中学生になって、初めて、自分の将来の話をしたのが早乙女君だ。
